建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



室生寺
深い渓谷が続く室生の里。女人禁制の高野山に対して女性に門を開いたことから女人高野と呼ばれた室生寺は、煙るような山間の美しい自然の中に溶け込んでいた。
草木の香りと室生川の清流につつまれ、ひんやりとした境内の石段を登って行くと、そこに金堂が見える。
写真家の偉人・土門拳が四十年間にわたって撮りつづけ脳出血で倒れてなお、半身不随の体をおして追いつづけた雪の室生寺。
私がはじめて室生寺と出会ったのはその一枚の写真だった。
よくもこの奥深い山里にこれだけの大伽藍を造ったものだ。
私は数えきれないほど多くの伽藍や塔を見てきたが、これほど強い緊張感と感動をおぼえたのははじめてだった。
檜皮葺の軒の深い屋根、その静かで誇張りがないゆるやかな曲線、その美しいデザインは現代のそれをはるかに越える精神性を感じる。
私は心のふるさとに帰るように京都や奈良へ足をはこぶ、しかしそれは単なるノスタルジーからくる思いではなく、日本の伝統やデザインというものに対して、自分自身はっきりした定見をもってかからなければならないと考えて炒るからで、それが混然とした現代に対する私なりの方法論なのである。




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