建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



備前焼の壺1
朝早くまた同じ夢を見た。
数ヶ月前、備前焼の古い登り窯を見にいった時、口が大きく潰れた大壺が草むらに 埋まっているのを見つけたのだった。
その大壷が何度も同じ夢を見せるのだ、話かけてくる様な気がする。
東の空が明るくなるのを待ってとりつかれた様に大阪へ飛んだ。
そして新幹線で岡山へ、そこから備前焼の里伊部は更に車で一時間はかかる。
岡山駅からレンタカーを借りて夢中で走った。
日帰りで戻ってこれるだろうか、無鉄砲な自分を責めながら、時間との戦いが はじまった、途中から降りだした雨はいっそう気持を重くしていった・・・。
備前焼は不思議な焼き物だ、どんどん虜になって深みにはまる。
伊部へは窯出しの折りに何度か足を運んでいた。
窯元の煙突が霧にかすんで見えはじめた、 雨は一層強くなり登り窯へつづく山道は車で登ることができなくなった。
雑草と雨水に足を取られながら、ずぶ濡れになって大壺を捜した、 この辺りにあったはずなのだが、季節が移って緑が繁り、見えるものがすこし 変わっているのだ。
時が数時間に感じた。恋しい人に会いたい、そんな思いだった。
胸が張り裂けそうに焦っていた。
誰かに見つけられて持っていかれたのだろうか・・・。




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