建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



京都の秋
一年中で一番忙しい時期なので秋の京都だけはいままで見たことがなかったが、 幸い名古屋での仕事が決まり、合間をぬって一日だけ足をむけた。
新幹線から見える途中の山々は、まだうっすらと色付きはじめたくらいで、 北海道の雄大な紅葉ほどでないと、内心密かに思いながら眺めていた。
しかし京都に近づくにつれ、その景色が変わりはじめた。
列車が駅に滑り込むと、一目散にタクシー乗り場へ走った。
山が燃えていた。
東山に連なる一面が夕焼色に染まり、西に傾いた陽が雲の切れ目から レーザー光線のように射してくると、木々は生き返ったように一層その赤味を 増した。
ああ これが昔の人が想像した浄土の世界か。
私は思わず南無と手を合わさずにはいられなかった。
木々は散りゆく運命を知り、最後のエネルギーをふりしぼって燃えあがっている。
その不思議な自然の波動を体全体に感じながらその場から立ち去ることができなかった。




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