建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



安曇野の石像
楽しそうな小鳥たちのさえずり、草の匂い、ふと目を開けると、そこには想いでそのままの情景があった。
「なの花ばたけに、いり日うすれ・・・・・・」、いつか口ずさんでいる自分に気がついた。
遠いあの日に聴いて歌った、なつかしい歌、五月の安曇野はそんな心象風景を映し出していた。
枝々から吹き出した新緑が、野の草が、そして田園を彩るもえぎ色が、光にきらきらと反射し、北アルプスから吹き渡る、澄んだ空気で、いっそう輝いて見える。
そんな田園風景の中に、点々と道祖神が、たたずんでいた。災難を除け、良縁と子宝にめぐまれ、家内安全で健康であります様にと、男女双体のほほえましい石像達。
村の子供達は、どうぞ美人になります様にと、道祖神に化粧をして拝むのである。
大地のぬくもりと、素朴な温かい心を持った人々、そしてその風景の中に、自然もまた、人間と同様に自らが成長し、さらに美しくなるために、いろいろな試練を耐えて、創り上げていかなければならないという、先人たちの逞しい思いを感じた。
ある風景を見たときに感じる不思議な、なつかしさは、自らの祖先の魂が、自分本来の心に立ち戻る歓びなのかも知れない。




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