建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



自然体
みぞれが朝から降りつづいていて、それがシャーベットのようにアスファルトの上を覆っている。人に出会うことが珍しいくらい静かな嵯峨野の一本道、まだ日が高い時間なのに景色が煙ってしんとしている。雪の白いすじが杉林の森の中に吸い込まれていて、絵でも写真でもそれをつたえるのはむずかしいだろう。もう十回はこの道を通ったろうか。息をきりながら坂道を登って行くと、今しがた誰かが掃除して帰ったかと思うほどきれいに掃き清められた山寺についた、。境内にはいつものおじぞうさまがいる。
静かに立つ姿、やわらかい表情、前に立ってしばらくその顔を眺めていると、にこりと私にほほえみかけてきた。
自然体で生きたいと常に思う。
松下幸之助は商売の極意はと聞かれ、雨が降ったら傘をさすといい、茶道の秘伝はと聞かれた利休は、夏は涼しきように、冬はあたたかにと答えたというが、あたりまえのことをあたりまえにする難しさ、感動するこころが足りなければその本質はとらえることはできないのだと思う。
感じるその心はロボット化し、合理化された教育や環境では育たない。いつしか、このままでは日本人が本来持っている文化や美意識に対するすべての感覚をさびさせていくのではあるまいか。




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