建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



千両と万両
正月飾りでかかせないのが、センリョウだろう。
赤いルビーのような実と葉の形が正月祝いの場にピタリとはまる。
今年は同じ赤ならナナカマドの枝と思い生けてみた。
紅葉をカエデと競い、そして雪の白さにひときわ鮮やかに華やかさを添えるナナカマドの実なのに、その風情がどうしても正月飾りにはしっくりこないのだ。
はてなぜだろうと頭をひねった。
名前のせいねと妻が言ったが、たしかに千両とは縁起がいい、そんな先入観が見方まで変えてしまうということはよくあることかもしれない。
そう言えば、正月にはよく使うナンテンも「難を転ずる」という語呂合わせがあるし、万両もめでたい正月花材だ。
百両もあると聞いたがまだ見たことはない。
千両は葉の上に実があるが、万両は葉の下に実を付ける。植物も人間も、財産ができると人に見せたくなるらしいから、千両たまった木はこれ見よがしに葉の上に実を付ける。
もっとたまって万両ともなると、盗まれるといけないから葉の下に隠すように実を付けるというのだ。両者の見分け方をそんなふうに教えてもらった。
百両は財産が少ないのを恥ずかしがって、見られないように実を付けるというのだが、そう考えるとナナカマドは、実が重なり合って多すぎて、やがて息苦しくなり、日本の正月の奥ゆかしさにかけるなあと思いあたった。




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