建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



タンチョウ
正月の新聞に阿寒郡鶴居村の初日の出とタンチョウの姿がカラー写真入りで紹介されていた。
下雪裡の川面を朝日が金びょうぶのように染めた写真だった。
数年前、タンチョウ見ずして死ぬなと、D先生から誘われて出掛けて行ったことがある。
雪裡川にかかる音羽橋には、この季節毎朝何十人もの写真愛好家が、五百ミリ以上の望遠レンズを構えて連なる。
しかしシャッターチャンスは夜明け前のほんの数十分、朝日が山の向こうに来て、顔を出す前、東の山裾を赤く染める一瞬、川面にその淡い光が反射してタンチョウが逆光で見える。
気温は低ければ低い程よく、川面に水蒸気が湯気となって、けあらし現象をおこす。
その時、幻想的でこの世のものとは思えない絵姿になる。
はじめてこの橋に立った時、そんなことを居合わせた愛好家達から得意げに説明された。
お地蔵さんや古くて懐かしい写真ばかり撮っている私にとって、はじめての動く被写体だった。
ありったけの写真機材を担いできたのに、その日は厚い雲におおわれて太陽がでなかった。
こんどこそと、翌朝の4時から用意をして備えていたのにけっきょく雪に遮られた。
拷問のような寒さに悲鳴を上げ、もう来るものかと思っていたのに、数日たつとこの世のものとは思えない姿をまた見に行こうと思った。
「タンチョウを見ずして死ぬべきでない」
華麗なあの飛ぶ姿を一度でも見た人なら、きっとそう思うにちがいないはずだ。




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