建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



ゆらぎ効果

いつも行く近くのお菓子屋には二千円の和菓子があってそれがプラスチックに入っている。
木の箱に入れてもらうと二千四百円になるが、人様にはそれをお持ちすることになる。中味がまったく同じであっても木肌の魅力が別のものに見せてしまうのだ。
日本人は長い間、木に対して深い愛着を感じて生活してきた。
しかしこのごろ世の中どうもあやしくなった。
高級マンションと銘うったほとんどがプラスチックに印刷した木目で仕上げられているし、戸建の住宅でさえ手に触れる仕上げ材の70パーセントは、まがい物でできている。
そんな生活空間の中では本物を、動物的臭覚や視覚で理解できない時代がくるのではないか。

あるカラーセラピーの研究家が現代の住宅空間には、ゆらぎ効果が足りないと言った。自然な木目の流れや、和紙の光のゆらぎ、そういう人間の五感にかかわる何かが足りないというのだ。

脳の中にある古い皮質の原始的な欲求を見落として、本当の愛着のある空間などできるはずがない。子供達の「きれる」といういらだちも、そんな欲求からきているのではあるまいか。工業製品の発達を進歩だと信じこんできた私達は、しかし果たしてそうだろうかと、いま環境的にも立ち止まる時がきたのだと思う。





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