建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



秋 日

秋ナスは嫁に喰わすな。
肌寒い風が漂うようになると、こんな言葉をいつも思い出す。

父のいない農家に育った私は、姉五人と弟そして母の八人とで肩を寄せ合うように生きてきた。
家族全員が朝早くから野良に出て働いていた。中学生になると、朝飯の支度は私の役目で、毎日野菜の油炒めだったが、なかでもナスの料理が得意だった。そしてナスが出ると決まって母は「秋ナスは嫁に喰わすなといって姑からいじめられた」といつも話していたから、秋風が吹くころになると、ふとそのことを思い出すのである。
秋ナスは実がしまっておいしいから、食べ過ぎて身体を冷やさないようにと嫁を気づかったことばなのだが…。

今年、吾が家の猫の額ほどの広さの庭に、農家の仕事などまったく知らない女房がナスの苗を2本植えた。
大切にしている坪庭の、それもまん中にである。
ナスは花を愛でるものではないのにと、半分あきれていたのだが、毎日手入れをしていたらしく、どんどん大きくなった。それも周りのツツジの木より大きくなって、幹などは木の様なのだ。
それからというもの、毎日毎日、二人では食べきれないほど実が成って、もう見るのもいやになるほど食べた。
女房は友人に自慢するものだから見物に来る人まででてきた。
農家をやっていたと自慢ばかりで、野菜など作って見せたこともない私は、もうすっかり形なしだ。
やっぱり愛情が一番よ、と女房は言うけれど、鶏糞20kgも入れればそうなるよ、と水を差すようなことは言わないようにしようと思いながら、今日も秋ナスを食べた。





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