建築家石出和博が心で見た日本の美しさを写真とエッセイでつづった日本のかたちとこころを癒す叙情詩・こころ紀行



一期一会

私は写真が好きなのか、カメラが好きなのかと考えてしまうことがある。
四十年ほど前、はじめての給料でオリンパスハーフカメラの中古をやっと手に入れた。食べることもままならないのに家に仕送りをしていたから、十回月賦で買った。
毎日、擦り減るほど磨きこんでいた。小さいけれど、歯切れ良くシャッターが切れるのがうれしかった。

あれから何台かのカメラを手にしたけれど、やっぱり機械的な感触の物のほうが気持ちいい。今では一週間もカメラをいじらないと、シャッターを押したい衝動にかられて歩きまわるほどである。
プロとは違うから作為的なことは出来ないが、写真は機械が写すんだから誰が撮っても同じだ、と思っていた。しかし長く撮っているあいだに、そうではない事に気付いた。
一期一会というか、はじめての出会いで無心に撮ったもののほうが、何度か出直して撮ったものより一番いいと、不思議と気付くのである。

このごろは、雰囲気とか、まわりの空気みたいなものを撮りたいと思う。
旅に出ると、初体験のいろいろなものに会う。はじめての場所、はじめての季節、はじめての人、そして私の好きな空間に出会うと舞い上がってしまい、真っ白になってシャッターを押す。
写真の一過性の美学というものがそうさせるのか。未熟な心がそうさせるのか。





前のページ 1 > 2 > 3 > 4 > 5 次のページ